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フロイトのナルシシズム [メモ]


 メモ、「ナルシシズムの導入にむけて」(1914)について。

 まず、フロイトはナルシシズムという用語が、自分の身体に欲動を向ける倒錯の一つの臨床形態に由来していて、ナルシシズムの研究と倒錯の研究が同じ土俵にあるということに言及する(「われわれがあらゆる倒錯の研究にとりかかるにあたってえられると予測される諸々の事柄は、ナルシシズムにおいても見いだされるはずだ」)。そして彼は、この用語の適応範囲を拡張し、広く人間の精神活動にも見られるものではないかと想定する。そのさい、フロイトはとりわけパラフレニー患者(現在の疾病分類では統合失調症患者)において、現実との関係が失われるという事態に注目する。この事態を考えるために、フロイトは、リビードには自我に向かうリビード(自我リビード)と対象に向かうリビード(対象リビード)があると仮定する。両者は一方が増えれば、他方は減るという均衡関係にある。そしてパラフレニー患者においては、対象に向けられたリビードが自我へと撤収され、誇大妄想と現実の喪失が起こると想定している(このような発想にすでに対象関係論的な萌芽があることに着目しておきたい)。そのさいに問題となるのは、この二次的ナルシシズムを形成する、対象から自我へと撤収されたリビードが、どのような性質を持つのかということだ。それまでのフロイトの理論では、自我欲動(自己保存欲動)と性欲動は峻別されるものだったが、性的な量としてのリビードが自我に撤収されるという考えを取ることにより、自我欲動と性欲動の二元論に亀裂が生じる。そうして、この論考の六年後には、自我欲動と性欲動はエロース(生の欲動)としてまとめられ、死の欲動と対立する新たな二元論が提唱される。また、この論文の最後の部分では、対象選択の問題から自我理想の問題まで、論点は拡大されるが、これらの諸概念は後に、第二局所論として新たな理論的布陣を持つことになる。

(十川幸司「フロイト論」 岩波『思想』2012年8月号 P16)






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