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自己愛とナルシシズムの微妙な関係 [メモ]


 メモ。

 本題に入る前に、一般に私たちが現在、臨床で「自己愛的」と呼んでいる患者には、どのような特徴があるか振り返っておこう。そのような患者は、自己評価が高く、独特の傷つきやすさがあり、また一見傲慢にも見えるが、どこか自信はなく、引きこもりがちだ。そして治療関係においては、だいたいエディプス的な転移を起こし、治療者側は、患者に対する憤りや軽蔑といった逆転移を抱きがちだ。病態としては神経症かパーソナリティ障碍レベルにある--そういった患者だろう。だが、現在、私たちが「自己愛的」と呼んでいる病理と、フロイトが構築した「ナルシシズム」という概念には、本質的に関係がない。ナルシシズムという概念は精神分析の諸概念の中でも、とりわけ不正確な形で用いられたきたものの一つだ。このあたりの事情を、アンドレ・グリーンは、ナルシシズム概念は、アメリカでは誤って理解されたうえ過度に普及し、イギリスではただハーバート・ローゼンフェルトだけが着目し、フランスではそれを引き継ぐ分析家がいなかったと巧みに述べている。日本でも事情は同様で、そもそもナルシシズムを「自己愛」と翻訳したことが、誤解の原因の一つともなっている。ナルシシズムは自我と欲動の病理で、自己や愛とは直接の関係はないといっていい。

(十川幸司「フロイト論」 岩波『思想』2012年8月号 P15)






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