1932年のパラノイア論
以下は概略のみ。
そもそもパラノイアの定義がややこしい(一時期のドイツでは精神病の七割がパラノイアと診断されていたらしい)が、現代風に言えば妄想を伴う統合失調症とするべきか。
当時のパラノイアの病因論は、ヤスパースによると「人格の発展」「心的過程」「身体-精神病的過程」の3つに分類される。
これを心因論と器質論(病的過程)に分けて(心的過程を器質論に含めてみる)、ドイツとフランスの違いを考えれば、2×2=4分類となる。
ミレールの師は、これらをいろいろ比較検討したあと、エメ症例について分析していく。
この症例を詳しく見ていく過程で、上記4分類のどこかに当てはめるだけではなかなかうまく説明できないことが分かる。
そこでII節の第4章にて
「エメの精神病は人格の構造において優位を占める自罰のメカニズムによって実現されていること」
「これらの自罰的メカニズムをフロイト理論に従って、リビドーと呼ばれる心的エネルギーの経過上のある固着として理解することによって、患者の人格のこのうえなく明確な臨床的相関を説明すること」
というタイトルに示されるような、パラノイアの新しい病因論を説明する。
この著作の意義は、フロイトがナルシシズム論を使うなどしてもなかなか明確にできなかったパラノイア論を、当時のドイツとフランスの病因論を参考にしながら、そこに精神分析理論を導入することで、それなりの説明が可能になったことにあるだろう。
この説明が後の『精神病』セミネールの基礎だということは間違いないし、随所に独自のダイナミックな発想が垣間見られ、オモシロい読書体験だった。
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